フランス料理の発展・普及を目指す活動

フランス料理の発展・普及のため、料理講習会や貴重な料理書・資料の収集保存を始め、様々な活動を行っています。

令和4年度 一般社団法人 日本エスコフィエ協会
ディシプル章授与式・総会・晩餐会

議案審議事項

太田(高)議長
太田(高)議長
伊藤理事
伊藤理事
【第1号議案】
役員構成

議長より議案書をもとに令和4年4月理事会で承認された「新役員構成」を説明、審議の結果、全会一致で承認可決した。任期は、令和4年6月7日から令和6年の定時社員総会の日までとする。出席の被選任者は、その場でその就任を承諾した。

太田(高)議長
太田(高)議長
【第2号議案】
2021年度事業報告

能勢事務局長が議案書「2021年度事業報告書」をもとに説明、その承認を求め挙手により可否を諮ったところ、満場異議なく承認可決した。

能勢理事
能勢理事
【第3号議案】
2021年度収支報告等

伊藤文彰理事が議案書「2021年度収支報告書」をもとに説明、その承認を求め挙手により可否を諮ったところ、満場異議なく承認可決した。続いて吉田監事より議案書をもとに2021年度の監査報告、その承認を求め挙手により可否を諮ったところ、満場異議なく承認可決した。太田議長が、第3号議案はすべて承認された旨を告知した。

伊藤理事
伊藤理事
吉田監事
吉田監事
【第4号議案】
2022年度事業計画書

能勢事務局長が議案書「2022年度事業計画書」をもとに説明、その承認を求め挙手により可否を諮ったところ、満場異議なく承認可決した。

【第5号議案】
2022年度収支予算案

伊藤文彰理事が議案書「2022年度収支予算案」をもとに説明、その承認を求め挙手により可否を諮ったところ、満場異議なく承認可決した。

各議案書の詳細は下記よりダウンロードしてください

能勢理事
能勢理事
吉田監事
吉田監事
川崎氏講演全文クリックしてプルダウンしてください

1. はじめに
僕は調理と食べ物の研究者、科学者です。料理人の技術の理由を科学的に説明するような、料理人の味方でありたいと思っています。皆さんのされていることは間違っていることはないと思います。その説明が科学的に違っていることはあるかもしれないけれどやっている仕事は全く間違っていない。すべてがおいしさと効率につながっています。
料理に興味を持ったのは小学生ぐらいで、料理人になりたかったし科学者にもなりたいと思っていたので、料理と科学がいつの間にかつながったのです。小学生の時は母方の祖母が経営する西洋亭という名の料亭で暮らしていました。芸者さんが出入りするいわゆるお茶屋さんみたいなところでした。お出しする料理は鍋料理や仕出しで西洋料理ではありませんでしたが、なぜか鉄製のステーキ皿がたくさんあった記憶があります。しかし、跡継ぎがいないために店は廃業しました。味の素株式会社に入社後、料理人の技術についての研究をしたり、料理人とのコラボで料理専門誌で連載をしたりしていましたが、5年ほど前に祖母が体調を崩し、亡くなる前後から、西洋亭とはそもそも何だったのかに興味がわき、調べ始めました。

根室 西洋亭
根室 西洋亭
長谷川 徳太郎
長谷川 徳太郎
西洋亭 メニュー
西洋亭 メニュー

出てきた写真の一つがこの料亭、建物の写真で、場所は北海道の根室です。創業は明治20年、創業者は長谷川徳太郎、僕の高祖父にあたり、いわゆる天皇の料理番よりも前の世代です。当時北海道に5軒しか西洋料理店はなかったそうです。高祖父は兵庫県出身で東京に出て船乗りになり、料理を勉強してヨーロッパ航路の料理人を務め、何年かして根室で船をおり、パトロンになってくれた日本郵船の方の屋敷の片隅にこの料亭を作り、大正年間まで根室で料亭を営んでいました。北海道の実業家について書かれた資料によれば、その料亭は非常においしい料理を提供し、3回も火事を出したにもかかわらずお金を出してくれる人があり再建できたという事です。外国人のお客様も多かったそうですが、高祖父は余り弟子を取らず、自分で料理をすることを好んだようです。
メニューを見てみますと、スープ、七面鳥ロース、つづいて「サシズ」というのはソーセージのようです。イギリス経由のフランス料理であったようです。「カラデ」これはよくわからないのですが「ガランティーヌ」ではないかとも聞いています。ビフテキはその通り、ニクサラダ、はわかりますがメンチトマトはトマトソースでメンチを煮込んだのでしょうか。写真がないのでよくわかりません。そのつぎにチキンポーイロ、このポーイロはいまだに分かりません。辻󠄀調の先生の見立ては「ボイル」ではないか。僕は「ポワレ」を英語読みしたものではないかとも思いましがチキンのポワレがこの位置に来るというのは不思議です。後はお菓子とコーヒー、バーンはたぶんパンです。フランス語と英語が混じってわからないところもありますが非常に人気があった料理店だったそうです。僕は料理が好きで料理人の役に立ちたいと思ってやってきましたので、そのルーツがここにあると思うと嬉しいです。

2. 料理の科学とデザイン
京都の菊乃井さんなどが作った日本料理アカデミーという組織で活動し、雑誌の連載、本の執筆などを通して考えたことをお話したいと思います。まず料理はデザインであるというところから始めましょう。料理は五感芸術である、総合芸術、アートであると言われることも多いと思います。確かにその一面はありますが、例えば、印象派の画家モネが睡蓮を描いたのは、睡蓮を見せたいからではなく、絵を見た人に「光とは何なのだろう」と感じ、考えて欲しいというのが目的だそうです。皆様は料理を食べに来たお客様に「料理ってなんだろう」と考えさせたいですか? そうではなくて「おいしかったな」と思って帰って欲しいですよね。それが実はデザインなのです。「デサイン」はもともとラテン語で「計画を記号にすること」という語源があります。一般的なデザインのイメージは機械の外観であったり椅子であったり見た目をデザインするという事が多いです。しかし本来のデザインとは、ものの本質を見出してソリューションを提供することです。多くのデザイナーは椅子をデザインするときに既存の椅子を参考とし、似たような形で座れればいいと考え、見た目や色を考えてデザインします。しかし本質的にものを考えるデザイナーは椅子とは何なのか、座るとは人間にとってどんないいことがあるのか、そういうことを考えデザインするそうです。椅子の本質、何ができるのかを考えるときに科学の役割があります。科学という道具を使えばその椅子が持っている役割を「見える化」できるのです。科学というのはそれが主になるのではなくツール、道具でなくてはいけない。ツールとしてデザインに使っていきましょうという考えです。
科学的な考え方とは単純に言うと因数分解です。世の中にあるものをそのまま受け取ってそのまま理解することはできなくはないですが、理解しづらく、他の人に伝わらないし、共感できる人・できない人があります。科学的に考えるとは因数分解をしてできるだけ細かく考えることによって科学的な世界で、科学の言葉で理解する、それが科学の役割です。
因数分解には食材の因数分解と、調理方法の因数分解の2種類があります。食材の因数分解とは鶏肉というものをそのまま受け取るのではなく、「おいしい所」と「嫌なところ」を分解して考えたり、皮と身を分けて考えましょうということです。これはすべての食材について可能ですが、特にフランス料理ではよく行われます。食材を分解して分解したものを最適に調理して皿の上で再構築する事です。
次に調理法の分解について、例えば鴨の骨付き抱き身があるとします。それを単に焼いて、そのまま出すこともできます。一皿3000円くらいでしょうか。でもフランス料理ならまず骨を外し、骨は別に焼いてジュを取ってジュ・ド・キャナールにし、胸肉はロゼになるように焼きます。ジュ・ド・キャナールはそのままソースにすることもできます。同じ材料でも再構築することによって一人前3000円が5000円になるかもしれないですね。分解再構築は調理方法を分解し、食材を分解して値打ちを上げることができます。それが科学的でかつデザインだという事です。
食材を分解して再構築することによって料理の世界に多様性ができました。エスコフィエの「ル・ギッド・キュリネール」では最初にフォンについて書いています。フランス料理はソースが重要で、そのもととなるフォンの分類をし、その派生としてのソースを語っていくという順序は非常に科学的です。
科学においてもう一つ重要なのは分類です。世の中の組成を水と火と土からなっている、と分類して仮説をもとに議論をし、証明する手法をとったのが哲学です。そのプロセスが錬金術になり、さらに発展して科学になります。まず分類から始めるのが科学的な考え方の基本です。「ル・ギッド・キュリネール」を読んでエスコフィエはそれをやっていることに気づきました。当時力を持ち始めていた科学を取り入れただろうと思います。しかし、日本料理ではそういう本がありません。そこで今、日本料理アカデミーで「ル・ギッド・キュリネール」の考え方が大事だという事を主張し、科学の手法に則った日本料理の本を作ろうとしています。
分類と同じく重要なのが「名づけ」です。最近の若い人の料理はメニューに素材名が並んでいるだけのことが多いなと思います。それではどんな料理かわかりません。料理は素材だけでなく調理法やソースの組み合わせによってどういう味になるかを想像する楽しみが大事ではないでしょうか。食べ手に知識がないから書いても分からない、という見方もあるかもしれませんが、素材だけでは100年後にそのメニューを見たときにそれがどんな料理か想像もつきません。1970年代にフランスに行かれた方が持って帰られたメニューを今見ると、素材に加えて料理法やソース名が書かれているので、「当時こんな料理を作っていたんだ」と知る面白さがあります。素材だけのメニューではそれができません。素材名を並べているだけの料理人は100年後に遺そうという気がないのでないか、それを危惧しています。「フォアグラとフィレとトリュフの料理」というだけのメニュー表記だったら今まで残ったでしょうか。「ロッシーニ」という名前があるからこそ今日まで残っているのです。ですから若い人に自分の料理に名前を付けるように事あるごとに話しています。

3.だしとうま味の科学とデザイン
人類は約200万年前にアフリカで誕生し、数万年前から世界に散らばりました。日本人がフランスに行ってもフランス料理はおいしいと思いますし、フランス人が日本に来ても好みはあるでしょうがだいたいおいしく食べられます。それは人間に必要な栄養が変わらないからで、味覚受容体、嗅覚受容体、口の中の仕組みが同じだから本質的においしいと思うものも変わらないのです。
水の中に味成分と香り成分が溶けた「だし」的なものがどうして世界中にあるのでしょうか。それはだしが料理の一番最初であったポトフ、鍋物的なものから来ているためだと思います。土器の発明とともに肉を水で煮るという料理が世界中で作られるようになりました。1キロの肉をそのまま食べれば一人約300gとして3人前ですが、同じ量でも水で煮れば10人分になり、食べられる人数が増えます。それは大きな発明でした。さらに、ポトフの汁を使って違う料理の味付けができ、豚肉から採った汁は鶏肉を煮るのにも野菜の味付けにも使えるのです。それが一気に料理の掛け算、因数を増やしたのです。だからだしは重要で、だしを考えるのは料理を考えることだなと思う様になりました。フランス料理と日本料理ではだしのプロセスは違いますが求めるものは似ています。西洋料理のブイヨンやフォンは素材を水で煮て抽出します。鍋の中で何が起きているかというと濃縮とメイラード反応です。素材からうま味成分のアミノ酸、コラーゲンなどが出て濃縮され、メイラード反応を起こして香ばしい香りになります。それがだしです。

だしのプロセスは違うが、求めるものは似ている

日本料理はどうかというと、濃縮とメイラード反応の部分として、鰹節や昆布だしの乾燥は生産者に任せて、厨房では抽出だけをします。日本の料理人は「出す」ことしかしないから、「だし汁」というのです。千利休は作業を分解して職業まで決めて自分はコーディネートするという立場で茶道を完成させました。それと同じく日本料理はあえて色々な専門家に任せるというやり方が正解なのです。日本料理とフランス料理の似ているところは面白いなと思います。

4.食の楽しみ
食の楽しみには食べる楽しみ、作る楽しみ、知る楽しみの3つがあります。食べる楽しみはその通りです。そして作って食べさせる楽しみもあります。知る楽しみは料理のコツであったり食材の歴史とかストーリーを知ることです。これらは全部つながっています。僕自身はその3つを学び、繋いで食の楽しみにはまっています。料理人はそのすべてのスペシャリストです。随時その考え方、知識を料理界だけでなく外に向けて欲しいと若い人には言っています。修業をする中で辛い、やめたいと思うことがあるかもしれません。しかし、そこの職場を辞めても他の調理場で活躍する場があるかもしれないし、ユーチューバーや料理研究家、企業のコンサルなどせっかく学んだ知識と経験を活用する場はたくさんあるわけだから、という話をしています。でぜひ皆さんのようなレジェンドも他の場もあるのだという事を知っていただいて、若い人たちに伝えて欲しいと思います。
本日このような場所でお話をさせていただきありがとうございました。

川崎 寛也氏 プロフィール

兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。現在、味の素株式会社食品研究所エグゼクティブスペシャリスト。特定非営利活動法人日本料理アカデミー理事。
専門は調理科学、食品科学、官能科学、味覚生理学。おいしさのデザインに必要な調理の科学について、作る側と食べる側、両面からの研究を行っている。月刊専門料理にて、「フランス料理の科学」、「おいしさをデザインする」、「アイデアをデザインする」などを連載。著書に「だしの研究」「料理のアイデアと考え方」(柴田書店)、「日本料理大全 だしとうま味、調味料」(シュハリ・イニシアティブ)、「味・香り『こつ』の科学:おいしさを高める味と香りのQ&A (柴田書店)」など。

味・香り『こつ』の科学
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